オーガナイザ×モデレータ対談————————
「デザインのチカラ」プロジェクトを振り返って。
昨年8月にスタートしたこのプロジェクトも、いよいよ最終回を迎えました。ひとつの区切りとして、これまでの取り組みを振り返り、デザイン学を周知していく中で発見した課題や、新たな展開などについてじっくりと語り合いました。それぞれの立場から見えてきた、このプロジェクトの成果とは、どんなところにあったのでしょうか?では、さっそくご紹介しましょう!
「ぼくがいる世界と、学問の世界の間にある溝を埋める」(俵太)
越前屋俵太(以下、俵太と表記):まず、このプロジェクトにご協力いただいた先生についてお話をしましょうか?それぞれの役割というか参加いただいたことで得られた成果について、どうお考えですか?
川上浩司(以下、川上と表記):例えば、松原厚先生について言うと、学生さんを取り込んで、学年ごとにアイデアを競わせていましたよね。非常にお上手な方法だと思いました。
俵太:学生さんたちも、わざわざ実験をやってくれたり、「GRAPHIC VOICE」に参加してくれたりと、がんばってくれていましたよね。
川上:そうですね。だけど、卒論や修論の時期に被ってしまって、最後まで継続できなかったのが残念でした。
俵太:別のタイミングだったら、結果が出るまで実験ができたかもしれませんよね。あと、野村理朗先生はどうでしたか?
川上:心理の視点から面白いサゼッションが多かったので、あれも実験まで持っていけたらと思ったんですよ。
俵太:わかりやすいという理由で、カラスにしたのですが、途中でUSJの方が良かったのかなと思ったんです。
川上:かもしれないですね。カラスが来るかどうかという心配もなかったでしょうし。
俵太:実際にUSJへ行って、先生たちが提案したアイデアを実験したらどうなっていたんでしょう?野村先生のサングラスをかけて西向きに歩く提案を、先生全員でやってみたかったですね。
川上:そうですよね(笑)。
俵太:とにかく、残念でした。じゃあ、大島裕明先生はいかがでした?
川上:情報学でも、人工知能における一般物体認識のテクニックを持ち込めることを教えてくれましたね。それに、デザイン思考がすばらしかったと思います。問題解決をするときに、どこにポイントを置いて解決していくか。それを、問題解決思考でシステマチックな提案をしてくれて、あれは“デザイン学的”でした。そこを突っ込んでいっても面白かったかもしれません。
俵太:デザイン学的に見ていくと、そうですね。ただ今回のプロジェクトで思ったのですが、先生たちは学術のプロではあるけれど、社会実装のプロではないのかもしれないですね。
川上:そうですね。社会実装をするときに、いざ社会と接するとなっても接点がピンポイントなんですよね。そこが、実装する上でネックになるんです。
俵太:ある意味、ぼくが京都大学に来ている理由はそこにあるはずなんです。ぼくがいる世界と、学問の世界との間にある溝を埋めるというか。なにか、橋渡しができるようになれば、先生たちも社会により溶け込んで、実装しやすい環境が整っていくと思うんですよ。
川上:そういう意味では、私が学者然としていてはいけないのでしょうね?(笑)
俵太:そうです(笑)。だから、まさしく川上先生には川上からおりていただく。
川上:なるほど。
俵太:このままだとぼくは落ちてしまいそうなので、なんとかそのロープで引っ張ってもらえませんか?(笑)
「3回で結論まで持って行こうとする、チャレンジ精神に溢れた企画でしたね」(川上)
俵太:プロジェクト全体を振り返った場合は、いかがですか?
川上:例えば、シンクタンクの人とワークショップをすると、半年から1年くらいはかけるらしいんです。それを、たった3回のイベントで結論まで持って行こうとした、チャレンジ精神に溢れた企画でしたね。結果的には2回しかイベントはできず、そういう無理が原因なのか、実験結果についてはどれも成功したことにはなりませんでした。
俵太:ただ、ワークショップで終わっちゃうのも多い中で、それを実装して展開させようとしたところは評価できますよね?
川上:そうですね。机の上だけで考えるんじゃなくて、デザイン学は社会実装する部分まで足を踏み込ませないといけないので、そこを目指したのは良かったのかなと思います。
俵太:そうですね。あと、それ以外にこのプロジェクトによってどんな発見や成果がありました?
川上:やはり、社会実装しようとする試みを公にしたところは今までにないことです。
俵太:そうなんですか?
川上:はい。いろいろな先生が数人ほど集まって、その人たちの中だけで問題解決をするというのは、よくあるんです。それを、一般の方々に披露したところは新しかったと思います。ただ、あれもこれもやろうと欲張り過ぎました。
俵太:たった3回しかないのに問題解決もして、それをみなさんに伝えようとしていましたからね。たしかに、欲張りです(笑)。
川上:だから次回、もしやるとしたら、じっくりとプロジェクトを進めていくプログラムが必要かなと思っています。
俵太:とりあえずやってみようではなくて、きちっと計画を立ててやるということですね。
川上:そうです。そうすれば、なにか事態が発生したときにその都度、対処するんじゃなくて、そうした事態を見越して計画に組み込む。そうすれば、協力いただける方々の負担にもならず、しっかりと混ざり合ってもらえて、私が期待していた成果にも結びつくように思います。
俵太:と、言いますと?
川上:各専門分野の人たちのアイデアがフュージョンして、単独では絶対に思いつかないようなものが出てくれないかと期待していたんです。
俵太:もう少し時間に余裕があって、一般の人も巻き込めば、それも可能性があったかもしれませんね。
「京都大学のデザイン学がやるべきことは、取りまとめなのですね?」(川上)
「国を司る人を輩出するところなので、そういう役割だと聞いていますけど(笑)」(俵太)
俵太:ぼくは社会実装の担当だったので、その立場から感想を言いますと、すごく大変だったんですよ(笑)。
川上:すごく、理解できます(笑)。
俵太:どうすればいいかという方法はわかるんですが、それにはものすごい時間と人員が必要なんですね。それを、国から予算をもらわずに続けるとなると、大島先生をインタビューしたときにもお話をしたのですが、ネット社会を活用するべきなんじゃないかと思うんです。
川上:研究に協力してくれる方をネットで集めるのですね?
俵太:そうです。クラウド社会実験のような形で、こちらで問題だけ設定してあげて、北海道から沖縄まで一斉に実験をやってもらう。それを、先生たちが学術的にデータとして精査してあげれば可能なんじゃないでしょうか。
川上:なるほどね。例えば今回の「カラスごみ問題」であれば、いろいろと試作したものを配って使ってみてくださいというのもできますし、それぞれが自由な発想で考えたアイデアでもいいわけですよね。
俵太:やり方はいろいろあると思います。イメージとしては、むかしテレビでやっていた『伊東家の食卓』の裏技みたいな感じです。みんなが自発的にやっているものを集めるというか。その中から、先生たちも驚くようなミラクルが起きるかもしれません。
川上:まさに、マルチアスペクトなわけですね。集まってきた情報を精査して、分類してまとめていく。もしかすると、京都大学のデザイン学がやるべきことは、取りまとめなのですね?
俵太:国を司る人を輩出するところなので、そういう役割だと聞いていますけど(笑)。
川上:考えるだけとか実験をやってみるだけとか、それらひとつ一つは小さな思いつきだったりしますが、それをしっかり掛け合わせるスキルを持ったプロがいると、本当の新しいアイデアが生まれてくるかもしれないですね。
俵太:とはいえ、クラウドだからといって、タダではできないですもんね。
川上:それはそうです。デザイン学の予算だけでは限界がありますし、そこをしっかりマネージメントできる人の存在が必要ですね。
俵太:そういえば、デザイン学には経営管理の先生がいらっしゃいましたね!最初は、同じメンバーだった人が。今回は、情報学と工学と心理学と元探偵しか絡んでいなかったですから(笑)。
川上:そうですね(笑)。あの先生は、海外に行ってしまったからご協力いただけなかったのですよね。
俵太:結論的には、予算面をしっかり描ける人をメンバーに加える。それは、その先生ということですね(笑)。
川上:その先生を名指しするのは忍びないですが(笑)、経営の視点をしっかり持っている方がいれば、次回はうまく進められそうな気がしますね。